手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「…私は…」

それだけ言うと美鳥は首を横に振る。

「ん、やり直しか?何度でもかまわない」
「…朱鷺が嘘を言ったとは全く思わなかった…本当に全く」
「うん」
「でも…断りきれない状況とかがあってお見合いして…結婚するのかなって…そうは思ったの」
「うん」

もう強く強く…美鳥の骨が軋むほど抱きしめてやりたい。俺の言葉は100%信じたまま、人から聞いた違う状況を一人で考えて気持ちの落としどころを探していたんだよな?だが、もう少し心の奥を聞かせてくれと願い、シンクについた両手を握りしめ美鳥を抱きしめたいのを我慢する。

「朱鷺を避けたわけではないの…ただ一人になりたかった」
「そうか、良かった…美鳥に避けられたら俺は生きていけない」
「ふふっ…大袈裟」
「大袈裟じゃないだろ?ライフワークの対象に避けられたら生きていけないだろ?ライフワークは生涯をかけるってことだぞ?」
「…避けてないから…」
「うん…一人になって考えて、何かしらの答えに行き着いたということだな?一日の行動から予測するに…きっと、そうだよな」
「…私は田代の父のように蜷川を…朱鷺を支えていきたいと思う」
「と、その時は思って墓参りに行った…違う?」

また大きく瞳を揺らしながら一瞬息を止めた美鳥に額を合わせて言った。

「ゆっくり息を吐いて…うん、そう…それで今は俺の見合いも結婚も無しだとわかったから朝とは状況が違うよな?それに…柏木専務へも断りを入れて俺を支えていく…その心の奥には何がある?それさえ音にしてくれたら…美鳥が心配するようなことは俺が一掃してやる」
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