手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「私は美鳥様にイギリスでもお仕えしましたので手前味噌ではございますが…世界中どの社交場へお出ましになっても恥ずかしくないお嬢様になられました。本日のお召し物も美鳥様がご自分で選ばれたと伺い感心致しました。亭主様や他の参加者様との格、また季節を考慮した装いが完璧で、海外にいながらも茶道のわびさびを理解されていたと…あっ…美鳥様、申し訳ございません。こういったことは外で言うものではございませんね。失礼致しました」

私が美鳥様に最敬礼すると亨さんが口を開いた。

「それはそうだけれど、娘を持つ親同士としてはそれくらいのことを教えてあげたくなるね。そうでないと…お茶会に来られた様子だから…その格好でこの先へ進まれるとマズイよね」

穏やかな亨さんが敦子さんより先に口を開くとは彼も思うところがあるのだろう。

「ここでこうして話をしているうちに時間が経っていますが、お時間は大丈夫ですか?」
「そうですね…敦子さんのおっしゃる通りですね。でもお茶会のマナーやルールをご存知ないようですからもうどうでもよいのかもしれません」
「え…僕は言ってるじゃないか…この先へ行かない方がいいんだよ、この人たちは」
「あなた優しいのね」
「敦子さんのおっしゃる通りです。亨さんはお優しい。私はこの二人が先に進まれて‘なんて格好だ’と冷嘲熱罵され‘1席の時間も考えられない時間に来るなんて’と常識の無さを罵られても構いませんがね」
「冷嘲熱罵…なんて…」

高田の娘がそう言うと

「ご存知ですか?お恥ずかしいですが、私知らなくて…れいちょうねつばってどういう意味ですか?」

美鳥様が遠慮がちに聞いた。

「美鳥様は12年間一度も日本に帰って来られなかったので、知らなくても恥ずかしいことではありませんよ。こうして聞けることが素晴らしい。冷嘲熱罵とは冷ややかにあざけって、盛んになじり非難することです」
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