手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「とにかく、ここで仕事の話をすること自体が野暮で嫌なのですが…」
「そうよね…西田さんも今日は秘書ではないですもの。私たちも蜷川当主名代として参加させていただいて、他の家の方と素敵な交流をさせて頂いた直後ですものね」
「でも、僕たちも含めて蜷川の縁者が全て安全なところへ預金を移し変える必要性を感じたという点では有意義な時間だったと考えて、西田さんも敦子もイライラしないで」
「それはそうね。法人だけでなく個人の財産も守りたいわね。お金はもちろんだけれど、送金や何やらで人とのお付き合いがわかるものですからね。そういう情報はお金以上に慎重に扱って頂きたい部分だもの」
「でも敦子さん。どこで乾杯のネタにされるかわからないので、早急に身を守る行動を」
「明日は月曜日ですからね。友人、親戚へも連絡してから、日都銀行へ行きます」
「それだけの個人資産が動くというのは、Ninagawa Queen's Hotelを超える金額が動くことになるんだろうねぇ」

亨さんも口調が違うだけで敦子さんと同じ攻撃能力があるな。もう高田親子は前にも後ろにも進めないという感じで立ち竦んでいた。

「では…高田頭取失礼致します」

美鳥様が丁寧に腰を折ると

「待って下さいっ、私…謝るので…二度とこのようなことはしないので…」
「その手を離しなさいっ」

私は美鳥様の腕に掛かった高田娘の手を離させると

「我が主のお帰りです、お引き取りください。美鳥様、失礼致しました。お怪我はございませんでしたか?」

美鳥様を前方に促しながら聞いてみる。その後ろで

「気安く娘に触れないで。あなたと美鳥は友人でも何でもないでしょ?退いて下さる?私の邪魔もしないで」

やはり最後は敦子さんだった。
< 219 / 268 >

この作品をシェア

pagetop