手を伸ばした先にいるのは誰ですか
車へ乗ると
「西田さん、お疲れ様でした」
美鳥様が子どもの頃から変わらない笑顔で言ってくださる。私からすれば美鳥様は朱鷺様同様に蜷川令嬢なのだが、美鳥様は世話になっているとか、自分も蜷川のために、朱鷺様のためにと思っていらっしゃるので使用人と同じ目線になっておられることがある。朱鷺様とご結婚されても、きっと変わらないのでしょう。
「最後は長々とお待たせして申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですよ。朱鷺に報告というよりは、遠藤さんに報告して西田さんを採点してもらおうと思って一生懸命聞いていたのであっという間でした、ふふっ」
蜷川のために朱鷺様のためにという思いが強い美鳥様は、高田頭取親子が可哀想などとおっしゃらないところが、またいい。朱鷺様は美鳥様を思って動いておられるが、美鳥様もまた朱鷺様優先で、そのために他者を切ることに抵抗はないのだ。
「この間は99点でしたからね」
「朱鷺は110点と言いましたけどね」
「今日は亨さんと敦子さんが110点でしょう」
「やったわね、あなた」
「そうだねぇ、お役に立てたなら嬉しいね。美鳥ちゃん、幸せになるんだよ」
「ありがとうございます。必ず」
美鳥様は穏やかに微笑んだあと
「ところで…‘れいちょうねつば’の漢字を教えてください。スマホで出るか…」
と小さなバッグからスマホを取り出す。
「あっ…もう冴子さんが屋敷に着いてるって…30分ほど前に朱鷺からメッセージが…」
「あと10分で屋敷だと返信願えますか?」
「はい」
「えっ…美鳥ちゃん、いつも英語で書くの?」
「朱鷺にはいろいろですね…英語の方が多いかも…日本語は変換が面倒で英語より時間が掛かるんです」
これも美鳥様だ。このままの美鳥様を朱鷺様とともにお守りしたいと強く思う。