手を伸ばした先にいるのは誰ですか





‘いつ、と今すぐ言えなくて申し訳ないけど、俺が東京にいる日と店の予約可能な日を確かめて明日連絡する’

昼間は‘私’だったが、この電話では終始‘俺’…これだけ完全オフにされると、年齢に関係なく人をファーストネームで呼ぶのは普通の環境だったので抵抗なく呼べる。

「龍は東京にいない日があるってことですね?」
‘山梨にいる時があるし他の出張もある’
「専務と営業部長兼任されているから忙しそう…」
‘蜷川社長もお忙しいと思うけどね’
「常にやることがあって仕事が終わることがない感じです」
‘その感覚はわかる。終わったと思う前に次々と業務が列を作って行くんだろうね。自分でコントロールできる対外的な仕事だけでなく、部下が居れば内部からどんどん報告や相談が上がってくるから’
「そうですよね…人の上に立つのは本当に大変だと思います」
‘父くらいの年齢なら勝手に人がついてくるほどの年数を重ねているけれど、若ければ若いほど大変な部分があると思うよ…特に日本では。蜷川社長は何歳?’
「30です」
‘そうか…って、俺の年は聞かないの?’
「聞きましょうか?それこそ日本では年齢によって言葉使いや付き合う態度を変える必要があるんですよね?私…そういう習慣がないから年齢は気にならなかった」
‘それでいいよ’
「言い訳になりますけど、日本でプライベートな知り合いがほとんどいないんです。慣れない会話で…すみません、今からお年を伺っても?」
‘ははっ…蜷川社長より上’
「31?」
‘残念’
「2?」
‘そう’
「…聞いておいてこう言うのもおかしいんですけど…」
‘うん、何?’
「やっぱりあまり意味のあるやり取りに思えないなぁ…人ともっと話したいとか、話を聞かせて欲しいとか、尊敬できるなって思うのには年齢も性別も国籍も関係ない‘個’…個性、uniqueだと思うから」
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