手を伸ばした先にいるのは誰ですか






「その美鳥に甘えているのが朱鷺なんじゃないか?」
「そうなると私は朱鷺様に付きながらも美鳥様をお守りしなければなりませんね。美鳥様自身の良さが消滅する前に…」
「遠藤、どういう意味だ?」

納得した風の父を横目に俺は遠藤に聞く。

「美鳥様は朱鷺様のことはもちろん、旦那様のことも考えておられるはずです」
「常に感謝しているからな」
「一生消える思いではないでしょうが、日々第一に朱鷺様や旦那様、蜷川を考えて行動するあまり無意識に自分を押し殺していれば美鳥様の良さが消えてしまうということです」
「…だったらどうする?」
「美鳥様をよく観察して、ご自分を優先した行動でないと感じれば僭越ながら助言をさせていただいたり、美鳥様の才能を活かせる場をもっと作って差し上げたいですね。美鳥様には朱鷺様より抜きん出た能力もありますでしょう?」
「美鳥は日本語も英語もネイティブだな」
「左様でございます。朱鷺様もネイティブと変わらない英語をお話になりますが美鳥様はさらに素晴らしいクイーンズイングリッシュをお話になる。旦那様は美鳥様をもっと手元に置いておきたかったと仰いましたが、あの年でイギリスへ行かれたからこその能力です。日本で一度も英文法を習っていない者の特権です」
「それはよく分かる。俺は中学3年間は英文法を習ったからか…美鳥と同じことを話しても言葉の選択や言い回しが違うことがある」
「美鳥様の脳内は英語で物事を考えていることが多そうですよね」
「私もね、朱鷺が大学で書いた論文と美鳥が書いた論文とどちらも読んだんだよ」
「どうでしたか?」
「朱鷺のものは分かり易かったが美鳥のものは難し過ぎたよ、美鳥の方が朱鷺より若い時に書いていたのにね」
「そうでしたか。朱鷺様、私は美鳥様が伸び伸びと羽を広げられる環境を整えることでお守りしますよ。朱鷺様も同じく羽をお持ちですから、もちろん大きく羽ばたいていただけるようお支え致します」
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