手を伸ばした先にいるのは誰ですか





‘朱鷺は美鳥と付き合っていて結婚したいが美鳥が了承しないと…朱鷺の言い方で朱鷺の言い分は聞いたよ’
「…」
‘私は、まず美鳥に申し訳ないことをしたのではないか…しているのではないかと思ってね’
「…申し訳ない?」
‘話を聞けばデートひとつしないような交際だと言うじゃないか…朱鷺が言えば美鳥は断れないことも多いだろう。無理やりだと思う訳ではないが…美鳥が朱鷺に恩を感じて、朱鷺を頼りにして全面的に信頼して生きていることは誰から見ても明白だからね、知らぬ間に自分の意思を押し殺したことが5年の間にはあったと想像するんだよ。そこがまず申し訳ない…それは朱鷺の親として湧いた気持ち。そして美鳥の親としてはとても心配な点だから朱鷺といろいろ話をしたんだよ’

怒る訳でもなく、いつもの穏やかな調子で旦那様は続けた。

‘賛成反対というのではなく‘最善’を選ぶべきだと思うからいろいろと話をした。もちろん選ぶのは朱鷺と美鳥自身だが、その選択が一致しないと交際も結婚も成り立たないものだ’
「…はい」
‘そして今、美鳥は結婚を断っている。それでいいんだよ。遠藤くんも言っていたよ‘美鳥様の才能を活かせる場をもっと作って差し上げたい’とね。蜷川のため、朱鷺のため…そう思ってくれているのはありがたいし嬉しいことだが‘自分のため’という行動を付け加える必要があるね、美鳥は’
「自分のため…」
‘そうだよ。私が美鳥を引き取ったのは蜷川のペットの鳥が欲しかったのではない。みどりを‘美鳥’にして翼を持たせたのは私だ。大きく羽ばたいて欲しいという願いを込めてね。ひらがなのままではグリーンとも解釈できるだろ?それもいいが…私は美鳥を引き取る時点で世界に羽ばたける、自分で自由に飛べるようになって欲しいと願いを込めて名付けた。そしてその羽は美鳥自身が何色にも変えられる。どんな鳥にもなれるんだよ’

朱鷺は朱鷺。旦那様は鷹…だけど私は‘鳥’
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