手を伸ばした先にいるのは誰ですか





「…お父さん…ありがとう」
‘美鳥…外でないのにお父さんと呼んでくれたのは初めてだ…今日は何日?記念日だから覚えておかないと…3月13だね?13日…’

がさがさっと音がするのでカレンダーを見て書き留めたのだろう。

「私、美鳥って気に入っているんです。漢字を貰えてよかったとずっと思っています」
‘そうか…そう聞くと私のやったことがひとつ肯定されたようでホッとするよ’
「誰も否定しないと思いますけど?」
‘否定されるのではないけどね、美鳥を引き取ってから嫌な思いもさせてしまったからね。引き取ったことが正しかったのかと自問することはある’
「…私の方こそ…蜷川をややこしくしたのではないかと申し訳ない気持ちになることがあります」
‘それだね、美鳥’
「それ…だね?何がどう?」
‘どうして申し訳ない気持ちを持つ必要がある?そんなものは今すぐここで捨て去りなさい’
「…」

穏やかな中で口調を強めた旦那様は

‘幼い子供ではどうしようもないことを周りの大人がやったんだ。美鳥に選択肢があった訳ではないし、ややこしくなったと言うのなら、それは大人が大人の世界で勝手に繰り広げたことで美鳥の意思や言動とは全く関係のないところで起こったこと。申し訳ないと思う気持ちが美鳥の羽を縛りつけてる’

そう言い

‘それなら少し離れたところで羽を広げてみるかい?Ninagawa以外の仕事を紹介できるよ?’

と聞いてくる。

「それは…今はいいかな…初めて企画をさせてもらっているのが楽しくって。川崎さんとなんですけど」
‘川崎さん、いい人だよね。美鳥の好きなように企画してみればいい。うまくいかないのも仕事だ。朱鷺のサポートだけではそれは分からないだろ?’
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