王女の選択

15


*****

経験したことのない痛みだった。

ものすごい熱さが体中を駆け巡ったかと思うと、すぐに信じられないほどの寒さで指先の感覚がなくなった。カーラが必死に目を開けようとしていた時、ジェラルドの唇が突然カーラを覆い、液体が流れ込んできた。ほとんどの液体が唇の端から流れ落ちると、泣きそうな顔のジェラルドが目の前に飛び込んできた。飲むように言われ、次から次へと流れ込んでくる液体を必死に口にした。

ジェラルドが優しくへばりついた額の髪をかき分ける。彼の名を呼びたかったが、唇を開こうとすると体に強烈な痛みが走り、一ミリも動かすことができなかった。ジェラルドに抱えられたとたん全身の痛みに悲鳴を上げそうになったが、その声を押しとどめたのは、血すら凍ってしまいそうな冷たい声で放ったルドルフへの言葉だった。

ジェラルド・・・・だめ・・・。

カーラは必死に言葉にしようとしたが、全く力が入らない。
息をすることすら苦しく、次第に視界もぼやけてきた。
すると、ジェラルドがカーラの額にそっと口づけ、耳元で大丈夫だと呟いた。
カーラは痛みに耐えながら全身の力を振り絞って、ジェラルドの手を握るとびっくりしたようにジェラルドは立ち止まった。
カーラはジェラルドを見るともう一度必死に唇を動かした。それを見たジェラルドは顔を寄せて耳を口元に近づけた。

「・・・・父を・・・・・許してあげて・・・」

最後の力を振り絞り、今にも消え入りそうな声で囁いた。
ジェラルドはハッとしたものの顔を歪め、もう目を開く力すらなくなったカーラはぐったりと体を預けた。
意識が遠のくにつれて、小さい頃の思い出が瞼の裏に映し出されては消えていった。ジェラルドとの戦いの場面が浮かんだ時、たった三日前の話なのになぜか遠い昔の出来事のように懐かしく感じた。

あの時、ジェラルドの圧倒的なオーラを感じながらも、戦えることに興奮している自分がいた。
初めて触れた彼の黒髪はびっくりするほど柔らかかった。
ヘーゼル色の目で見つめられただけで、鼓動が早くなっていった。
結婚を申し込んで来た時の驚きは言葉にはできないほどの喜びをもたらした。

薄れゆく意識の中で最後に気づいたことは、ジェラルドにまだ愛していると言っていないことだった。




< 135 / 196 >

この作品をシェア

pagetop