エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

01.いきなりデンジャラスな展開

 腰から太股を這うように触られている感覚に、ベッドの上で眠っていたブラウスとひざ丈のタイトスカートを履いた麻衣子は、腰を捻って体に触れる手から逃れようとした。
 逃げる麻衣子の動きに合わせて、タイトスカートを捲り上げた手はストッキング越しの太股に触れる。

「逃げるなよ」

 低く掠れた色気のある声の主は、シーツを掴む麻衣子の手首を掴んで腕の中へ捕らえる。
 上半身を屈める彼の動きに合わせて、ベッドがギシリと軋んだ。


「う……うん?」

 誰かの息遣いを間近に感じるのに、重たい目蓋は上がってくれない。
 何かがおかしいと麻衣子は感じ、覆いかぶさる相手を押し退けたいのに体は動かない。

 スカートの中へ侵入した手は腰から尻の丸みを執拗に撫でる。
 その厭らしい動きに麻衣子はびくりっと体を揺らした。
 ストッキングのウエスト部に誰かの指がかかり、麻衣子の頭の中で警報が鳴り響く。

(ふえ? これは、なに? 起きなきゃ。はやく、起きなきゃっ!)

 最高潮に高まった危機感に背中を押され、閉じた目蓋を抉じ開けた。


「あ、起きた?」

 バチリッ、勢いよく目蓋を開いた瞬間、霞む視界に飛び込んできた光景に思考が動かず、麻衣子は呆然となった。

 ベッドに寝ている自分の上に覆いかぶさっているのは、さらさらの黒髪に切れ長の瞳の整った顔立ちをした青年。
 ストッキングのウエスト部へ右手の指をかけ、左手は麻衣子の右太股を抱えた青年は、彼女が目覚めたことに気付くと目元を猫の様に細めて笑った。

「斎藤、課長?」
「おはよう、麻衣子さん」

 何故、勤め先の課長が自分を押し倒しているのか。
 回らない頭ではこの状況をすぐには理解出来ず、呆然と麻衣子は青年の名前を口にした。

「起きたのなら、もう遠慮しなくてもいいか」

「氷の課長」と一部の女子社員達から絶大な人気がある、仕事中は愛想笑いすらあまりしないクールな斎藤課長の微笑み。
 女子社員達が見たら黄色い悲鳴を上げるだろう笑みでも、上に乗られている麻衣子は背筋が寒くなる。
 何時かけている黒縁の眼鏡は外し、後ろへ流している前髪が切れ長の目にかかっているせいか、社内で見るよりも幼く見える。
 仕事中はきっちりと一番上の釦までかけているワイシャツは首元をゆるめているため、彼が上半身を少しだけ浮かした際に綺麗な鎖骨と意外と筋肉が付いている胸元が見えた。

「なん、で課長が? あの、足を離してくれませんか?」
「駄目。これ、破るよ」

 混乱する麻衣子のストッキングのウエスト部を掴み、斎藤課長は力を込めて引き裂いた。

 ビリッ、ビリリリィー!

「きゃああっ!? 何するのよ!!」

 反射的に抱えられていない左足を動かし、斎藤課長の頭目掛けて踵を下ろしていた。

「おっと、足癖が悪いな」

 左腕で踵落としをガードした斎藤課長は、楽しそうに口角を上げる。

「大人しそうな見た目なのに、実は気が強いとは。はっ、これがギャップ萌えってやつ?」

 独り言を呟き、斎藤課長はクツクツと喉を鳴らす。
 ルームランプで照らされた斎藤部長の顔はとても綺麗で、美形の俳優が演じる悪役が悪巧みをしているような、ドラマの1シーンを見ている気になった。

 彼が自分の太股を抱えてストッキングの切れ端を手にしていなければ、ベッドへ押し倒されている状況でなければ見惚れてしまったかもしれない。

「これはこれで、滾るな」

 薄い唇をペロリと舌なめずりする斎藤課長の手のひらが、剥き出しになった麻衣子の太股の外側へ触れて内側へと撫でる。
 確実に貞操が危ういのだと感じ取り、麻衣子の体から血の気が引いていく。

 太股の内側を撫で下りた斎藤課長の手は、ついに脹脛へ到達する。
 脹脛の外側を撫でる手のひらの感触で、あることを思い出した麻衣子は「あっ」と声を上げた。
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