エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

02.斎藤課長は策略を巡らす

 悶々としたまま迎えた月曜日の朝。

 ワイシャツに着替え黒縁眼鏡をかけて斎藤課長モードへ切り替え、ジャケットを羽織って鏡に映る自分の姿を見て最後の仕上げを思い出した。
 ホテルで混乱した麻衣子に殴られた傷は後頭部。
 だが、彼女の罪悪感を煽るように額に大き目の絆創膏を貼る。
 目立つ絆創膏を見て罪悪感を抱いたのなら、それを利用して食事に誘う算段だった。


 出勤してきた顔色の悪い麻衣子は、斎藤課長の姿を見た瞬間、幽霊を見たかのように驚きと怯えの眼差しを向けた。
 彼女の動向を注視して、昼食休憩時に廊下奥に設置された自動販売機へ手をついて腕の中へ捕らえる。

「麻衣子さん」

 須藤さん、ではなく、ホテルの時と同じく名前で呼べば、それだけで彼女は泣き出しそうな顔になる。
 明らかに動揺している彼女を見ると、自分の事を意識していてくれたのだと実感できて嬉しくなった。

 一方的に夕食の約束を取り付け、プライベート用の電話番号を書いた名刺を渡す。
 ここ数日観察して得た麻衣子の性格を分析した結果、お人好しで義理堅い彼女が名刺を破り捨てることはしないだろう。

 デスクへ戻る前に人気の無い非常階段へ向かい、隼人はスラックスのポケットからスマートフォンを取り出した。

『あのさ、兄貴は今仕事中じゃないのかよ?』

 スマートフォンから聞こえてきたのは、寝起きだと分かる崇人の声。

「仕事中だから手短に話す。なるべく郊外にある女性が好きそうで、気軽な雰囲気のレストランを探して予約をとっておいてくれ」
『は? レストラン?』
「じゃあ、頼んだぞ」

 昼休み終了時間が迫っていたのと崇人の文句を聞くのは面倒だったこともあり、言いたいことを伝えて一方的に通話を終わらせた。


 終業時刻となり、駐車場へ向かった隼人は車内に置いてあったトートバッグの中身を再度確認して、堪えきれず声を出して笑ってしまった。

 トートバッグの中身は、休日の一日かけてアダルトサイトをチェックした取り寄せたアダルトグッズ。
 店頭にあまり置かれていないXLサイズの避妊具は、避妊具の公式サイトだけでなく使用者の感想をもとにした体験談や、サイズ、薄さ、使用感、匂い、口に入れた時の味を記載してあるサイトを調べ上げ比較し、女性が最も良いと感じた最高級のコンドームを取り寄せた。
 また、体の関係を持った女性達から一般的な大きさより大きいと評された隼人自身のせいで、麻衣子が痛みを訴えた場合を考えて香りと使用感の良いローションも用意した。
 さらに、彼女の着替えとして布の面積が少ないサイドを紐で結ぶショーツ、網タイツ、ガーターベルトも購入しておいたのだ。

「兄貴、なんで俺の家に届くようしていしたんだ」
「俺の家に届けさせたら色々問題に成るだろう?」

 届け先に指定した崇人の自宅へ翌日の夕方には届くようにお急ぎ便を使用し、注文した翌日、つまり昨日の夜に死んだ魚のような目をした崇人がアダルトグッズ入りの段ボールを届けに来た時は、小躍りしたくなった。

 代金に手間賃を上乗せした金額を渡してさっさと崇人を帰した後、リビングで段ボールを開けてセクシーランジェリーを広げた瞬間、興奮のあまり爆発しかけてしまう。
 昨夜は、セクシーランジェリー着た麻衣子を抱くのを想像しながら興奮のあまり、爆発しそうな性欲を自力で発散した。

(すでに股間は、TPOを考えてくれないほど馬鹿になっているのに、これで麻衣子さんを抱けなかったら近いうちに色欲で頭が狂うな)

 眼鏡を外し、バックミラーに映る自分の顔を凝視する。
 経験上、仕事時とプライベート時のギャップに女は弱い。
 今まで隼人が甘えた顔を見せれば、大概の女は落ちて自分から体を開いた。

(斎藤課長と今の俺とのギャップで落とす)

 しかし、車での移動から食事終了までに落とすつもりだった須藤麻衣子は、隼人のアプローチに全く気付かず注文した料理とラーメンの話に夢中になっていた。

 近くにいるのに触れられないという苦行に、食事を終えた時点で股間と性欲が限界点を突破していた。

 口説く余裕も無く、同意無しで郊外に建つホテルの駐車場へ入れば、彼女は激しく動揺して思いとどまるように説得してくる。
 下心を持つ男の車に乗っているというのに今更だと思うと、頭と股間に血が登り爆発した。

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