エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
 ふらつきながら向かった先は、普段は使わない小会議室近くの男子トイレ。

 辺りを見渡し、周囲に人の気配がないことを確認して個室へ入った。
 扉の鍵をかけ、洋式便器に座り腕時計を確認する。

「会議までは、十分あるな」

 震える手でベルトを外しスラックスとボクサーパンツを下げていく。

 女子社員の足に触れた時、体の内側からとめどなく湧き上がってくる性欲と興奮を気力で抑え込み、普段通りの斎藤課長に見えるように歩くのは一苦労だった。
 生身の女性に触れてここまで股間の隼人が反応するのは久しぶりで、荒ぶる股間の隼人を鎮めるには欲望を放出しなければならない。
右手の甲に触れた彼女の脹脛。
ムダ毛と肌の感触を思い出すと、痺れるような快感が下半身を走り抜けていき隼人は眉を寄せる。
 あの脹脛を撫でまわしたら、あの肌に舌を這わせたら、どれほど昂れるだろうか。
 おそらく、今まで経験した以上の最高の快感を得られるはずだ。

「はぁ、あの女子社員の名前はっ」

隼人は脳内にしまってある社員の顔写真入りの名簿のページを捲る。

(あれは、確か、総務部の須藤麻衣子さんだっけか)

 第一印象は真面目そう以外という言葉以外は浮かばず、断ってもめげずに何度も食事に誘ってくる派手な女子社員達のように目を引く外見では無いのに、素足は隼人の理想とする足の持ち主だったとは。
 地味な彼女を自分好みに染め上げていくのは、愉しくて興奮することだろう。

「はぁはぁ、これは、ヤバいな」

 足の感触と、眉尻を下げて泣きそうになっていた彼女の顔を思い出して、興奮は最高潮まで高まっていく。

 こんな状態で参加した会議に集中など出来ず、翌日も須藤麻衣子を見かけると彼女の姿を目で追ってしまっていた。

 声をかけたいのに、直属の部下でもない彼女に声をかける用事がない。
 昨日の事をきっかけにして挨拶程度はしても、隼人から声をかければ面倒な事になりかねないことを、自分が社内でかなり目立つ存在だということは理解していた。
 声をかけたいのにかけられず、食事に誘いたいのに誘うタイミングが無い。

(どうする?)

 困ったことに、見かける度に須藤麻衣子を凝視していたせいか、ストッキングを履いている彼女の脹脛を見ると、体が反応するようになってしまった。

 デスクの下で自己主張する下半身に力を込め、中年太りのため全体的にふくよかで脂ぎった松山部長の裸を想像して股間の嵐が過ぎ去るまで堪えるか、我慢が出来ない時はトイレへ行きに昂った体を自分で処理した。
 もちろん、次に利用する社員が快適にトイレを利用できるよう、持参した消臭スプレーを撒くのは忘れてはいない。頭が茹だっていても、社会人としてのマナーと配慮は忘れてはいけないのだ。

(やばい。このままでは股間が馬鹿になってしまう)

 半日だけで普段の倍の体力を使い、体力に自信がある隼人でも、この状態が続くと精神的体力的に、あと股間が瀕死の状態になるかもしれないと焦る。


 鬱々とした気分で食堂へ行けば、利用者で混雑した中でも女子社員と一緒に昼食をとる須藤麻衣子を探してしまう。
 偶然を装い、須藤麻衣子の後ろの席へ座る。
 耳を澄まして会話を盗み聞いていると、彼女たちの話題は次の給料の使い道へとなった。

「でね、今度彼氏の誕生日なのよ。給料が出たら欲しがっていた財布を買ってあげるんだ」
「へぇー優しいね。私は給料で最新の脱毛器を買うんだ」
「何で脱毛器?」
「この前壊れちゃってね。剃刀だと肌荒れして痛いし、ネットでチェックした最新の脱毛器を買おうと思ってね。あっ、それかボーナスが出たらエステに通おうかな?」

(何だと!? 脱毛器? エステ? 給料日は……来週の月曜日か。その前に何とかしないと!!)

 隼人の頭の中が真っ白になっていく。
 来週の給料日後には、須藤麻衣子が脱毛器を買ってしまうかもしれないということが衝撃的過ぎて、食べていたカレーうどんの味も分からなくなる。

 固まる隼人の持つ箸から滑り落ちたうどんが器に落ち、飛び散った汁でワイシャツにスープの染みが付いてしまった。
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