こんなのアイ?





 帰りは定時に悠衣が迎えに来てくれた。

「ありがとう。ごめんね、まだお仕事中でしょ?」
「いや、もう今日は終わり。今からデート」

 そう言った彼は一華の結婚式の日に連れて来てくれた海の見えるエリアに車を向かわせた。

「お仕事いいの?」
「大丈夫だ。俺、元々日本人の残業や休日出勤は当然みたいなとこ嫌いだからな。そりゃあしてるが夜9時10時とかはない。従業員の中で、もしそんな時間になる奴がいたら人増やす。だから愛実の事務所の先生の考え方はわかる」
「事務員は30分以上の残業禁止。それ以上になるなら先生の仕事の取り方の責任として先生自らが処理するってね」

 車から下りレストランに向かう途中、彼が私に指を絡め歩きながら聞く。

「愛実、タルトどうする?」
「食べたい」
「すげぇ即答」
「季節が変わったから絶対違うタルトが出てるよ」
「はいはい…なら、タルトの場所空けて軽く飯な」
「はいは~い、任せて…ふふっ」

 私は単品でシーフードパスタトマトソース、彼はバゲットやサラダとセットで空豆と桜えびのパスタをオーダーしパスタはシェアして食べる。そして、克実の動きや後任の面接の話をしていよいよだなと思っていると悠衣に話をする。

「開業医になるのは大きな決断だよな。でも愛実の話を何回か聞いていると克実は何年も前から計画していたんだから心配ない」
「うん」
「愛実はそれをずっと見てただろ?心配か?」
「ううん、克実は絶対に大丈夫…問題は私だね。勉強と実務が違いそうで緊張する」
「それはそうかもな。でも皆何かを始める時は初心者の時期があるものだ。俺、社長だって初心者だったぞ」

 なるほど、それはそうだ。誰もが一度は初心者だ…何をするにしても。
< 167 / 196 >

この作品をシェア

pagetop