こんなのアイ?



「隣、悪いことしたかな?」

 私が支払いをしていると声を掛けられる。隣を見ると先ほどの長身男性とその向こうの白人男性がこちらを見ていた。

「いえ、そんなことはありません」

 そう言いながらカウンターに手をつき、自分の足のつかないカウンターチェアを彼らとは反対の方へ回転させ音を立てないよう下りると、隣の男性がチェアの20センチもない背もたれに手を添えて動かないように支えてくれていた。2、3年前までなら‘紳士的だな’‘大人の余裕を感じる親切だな’と感じただろうが今は‘女好きそう’‘遊び慣れていそう’と感じてしまう。

「ごちそうさまでした。失礼します」

 マスターと隣の男性たちに一応一言声を掛けてから店を出る。ストールを持っていて正解だったな。まだ9月末で昼間は暑いが今夜は涼しい。若干透け感のある黒ブラウス×グレーチェック柄ワイドパンツという手堅いスタイルに薄手のストールを加え家路につく。今日はまだ9時半なので一駅分歩いてやるせない気持ちを道端に放り投げて帰ろうか…

 金曜日の今日、勤務後に小中高の同級生と3人で夕食を共にした。私、中埜愛実(なかのまなみ)と彼女達は隣県出身で、私は大学進学時に彼女達は就職時にこの都内に出てきた。月に一度くらい一緒に食事をし互いの近状報告をしながらお喋りするというのも6年ほどになるんだな…

 今日その一華と紗綾と食事中、前回会った時に一華が結婚が決まったと言っていた続きを聞いてみたんだ。すると

「式も決まったんだけど…」

 と言いづらそうにしてから一華が告げる。

「ごめんね、愛実。お母さんたちが…どうしてもちょっと…愛実が来たら縁起が悪いって」

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