こんなのアイ?
‘俺…本気だぞ’
困ったな…悠衣は一緒にいて落ち着くのは確かだが‘本気’というのは困る。観覧車の後、車を置いてから夕食にしたいと言う彼がマンションに向かって車を走らせる間、窓の外の流れる夜の街を眺めながら考える。このまま帰った方がいいね。彼のマンションで車を降りたら夕食は断って帰ろう。
もうすぐマンションという辺りで信号待ちした静かな車内を彼の優しい声が揺らす。
「何考えてる?全部ゆっくり言ってみて」
穏やかな視線をこちらに向けたあと、前を向きアクセルを静かに踏み始めた彼に私も前を向いたまま話す。
「…今日はこのまま帰ろうかなって」
「うん、なんで?」
「…朝からずっと…もう十分な休日だから」
「…で、本当はなんで?言ってみ?何聞いても怒ったりしないぞ」
マンションの駐車場に入りながら彼は優しい調子のまま促す。このお見通しな感じは苦手だ。
「…本気って…困るから」
彼は慣れているであろう駐車場に簡単に車を入れるとエンジンを切り、ハンドルに置いた腕に顔をもたれさせこちらを見た。
「困らせてごめん…でも理由がわからない。教えて」
どこまでも優しく、しかし聞き出すまで帰さないという雰囲気の彼にお手上げだ。
「本気って…付き合って…その先に結婚があるじゃない?…学生のお付き合いでもないんだし…私もう結婚は絶対にしないから…」
「そうか…ふっ…またバカマナ思考だな…そこが可愛くて放っておけない」
優しい雰囲気に甘さを加えた悠衣は綺麗に微笑んだ。