こんなのアイ?
彼はハンドルから上体を起こすと私にぐっと覆い被さり私のシートベルトを外した。そして片方の手を握り、もう片方で私の髪を撫で
「そうは全く思ってないんだ、俺は」
言葉を選ぶようにしたあと
「予定変更」
と車を降り助手席のドアを外から開け私の手を引くとそのままエレベーターに乗る。最上階を目指す彼に
「…悠衣?」
「車で話しても冷える」
手を引かれたまま彼の部屋の玄関に着いた。
「上がって、何もしない…キスはもうしたからするかもな…ちょっと話聞いてくれ。バカマナ思考矯正講座受けろ」
彼はコートを脱ぐと木製のタワーコートラックにそれを掛け、使ってと言いながら先に進んで行く。コートを掛け彼の後を追うとソファーに置いてあったであろう部屋着を手に
「すぐ温まる、座って」
とどこかへ一旦消え、すぐ部屋着の代わりにピザのメニューを手に戻って来た。ピザが来るまでに話を聞けということだ。オーダーした後
「さて、さっきの話だが愛実の言ったことはナンセンス。付き合ったら結婚、結婚したら子どもというのを当たり前に言うのは俺は違うと思っている。もっと言うなら…一番嫌いな考え方だ」
彼は私の隣に長い脚を組んで座ると穏やかに、しかしきっぱりと言った。