こんなのアイ?




 解錠の音とともにドアを引くと愛実が踏ん張り切れずに倒れ込んできた。

「っぶね…」

 仕事で会食中だった俺のスマホが震え続けた。席を外し確認するとブレント…愛実、紗綾たちと一緒に飲み会だろ?一旦切れたもののすぐに鳴るスマホに応答すると

「悠衣…僕…愛実にフラれたよ…彼女体調が悪くて帰ったんだけど帰る前にきちんと僕の気持ちに応えられないと言ったんだ…熱あってしんどいのに…そういうところがいいんだけどね…とにかく悠衣に伝えるよ。愛実は熱があって一人で帰ったんだ、送らせてもくれなかった…悠衣、頼んだよ」

 そう言い向こうから通話をきった。愛実が熱あって一人…俺は迷わず会食のあったホテルを出た。大人数のパーティー会食で先に必要最低限の挨拶は済ませている。問題ないだろう…問題があってもいい。ホテル前のタクシーに飛び乗り愛実の住所を告げてから、ブレントの言葉を思い返す。

‘フラれた…送らせてもくれなかった’

 俺と一緒にいると…yesと言ったからには、まだ気持ちが追い付いていなくても他の男と二人はダメだと思ったのか…しかもブレントは想いを寄せてくれる相手だ。具合悪い時に送るくらいと思うが愛実自身が経験して嫌悪感のあることは避けているのかもしれないな。体調悪い時にまた頑張ったんだな。

 俺に電話が来ないかとスマホを持ったままだが、メッセージさえもない。こういう時に‘来て’と言えるようになって欲しい。マンションの住人とうまい具合にエントランスをくぐり抜け電話をかけながら5階に上がるが出ない…とぶちっと切れた。電源落とした?あり得ない…熱が下がったらバカマナ矯正講座がまた必要だな。
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