空の表紙 −天上のエクレシア−

騎士と街角





「あ〜…。くそっ!」


夕闇の町を
街灯が照らし始める

すぐそこの角を曲がれば
内門へと続く衛兵通り

兵隊割り引きのある食堂や
観光客向けの装飾武器や
防具の店が並ぶ

その前を通る度にアクアスは
腰の剣に手を当て
優越感に浸っていた。

(俺は本当の剣士なんだぞ。と。)


……情けなかった。
これじゃ自分も
あの店に並ぶ武器と変らないじゃないか…


訓練は嫌になる程
繰返して来たはずなのに
制止する事も出来ず
あの包みもいつの間にか奪われてしまった

もっと動ける筈だったのに…


事情を報告する為
即座に戻らなければならないのは
解っている


そこを曲がって
城の内門に入れば宿舎はすぐだ


が、何とか自分の手で
取り返せない物かと
アクアスは夜の城下町を
宛てもなく迷い子の様に徘徊していた


ふと、ジークの顔が浮かぶが慌てて頭を振る

(小さな子供か!俺は!


−そういえば騒ぎの中
ルビナを見掛けた
赤い髪を揚げ
白いドレスを着ていた。

綺麗だった。

すぐ人波の中に
消えてしまったし
自分も
我に返ってあの吟游詩人が
消えた方向へと走ってしまったから
会話は出来なかったのだけれど


激しい雨の中
樹々を掻き分け痕跡を追う
しかしかなりの手慣れと見えて
何の痕跡も残って居なかった

すぐに犬が放たれて居た様だが
あの雨だ。
匂いも流されてしまって
徒労に終わるだろう


部屋に連れられた後も
ピッキーノは叫び続けていた

心配したイザベラによって
医師が呼ばれ
鎮静剤を打たれる


アクアスは
あの吟游詩人について質問してみた




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