神殺しのクロノスタシスⅣ
ここで、ちらっと小人を見てみる。

先程までの、舐めた態度は何処へやら。

余裕をなくしたように、しきりに目をきょろきょろさせている。

自分は何を聞かされているのか、何を見せられているのかと。

その気持ちはよく分かる。

が、お前が恐怖を知りたいと言ったから、こんな授業が始まってんだぞ。

よーく聞いとけ。

そして恐怖しろ。

我が学院のイレース・クローリア教師の、悪夢のような「授業」を。

「水牢とは、どんな拷問ですか?」

「『アメノミコト』で行われてた拷問だよ。鎖に繋いで、水の入った部屋に閉じ込める」

「成程…。では、そこで呆けてる小人!」

イレースが、バシィッ!!と教卓を叩いた。

シルナが、「ひぇっ!」とか叫んでいたが。

それは聞こえなかったことにして。

「あなたの為に授業してるんですよ?聞いてますね?」

「き、き、聞いてるよ…」

「聞いてるよ…?教師に向かってタメ口とは、どういう了見ですか!」

ビンタ、二発目。

椅子から吹っ飛ぶほどの威力。

小人は目を白黒させ、床に這いつくばっていた。

仕方ない。お前が仕掛けてきたんだから仕方ない。

同情はしないぞ。

「さっさと席につきなさい」

「は、は、はい…」

「声が小さい!」

「はいっ!」

さっきまでの、ムカつくにやにや顔も何処へやら。

小人は恐る恐るといった面持ちで、席に戻った。

「どうやらあなたは、授業中だというのに暇そうですね」

「え?」

「ではあなたに質問です。さっきすぐりさんの言った水牢、どんな拷問だと思うか、あなたの私見を述べなさい」

「し、私見?そんなの…」

「さっさと答える!」

教卓バシンッ!

「ひっ…。そ、その…水牢というからには…す、水槽みたいなものの中に閉じ込める、とか…」

「だ、そうですよすぐりさん。合ってますか?」

「あはは〜。全然駄目だね。大外れ」

「では、正解を教えて下さい」

俺もよく知らないし、やったこともやられたこともないけれど。

水牢って、確か…。

「水槽じゃないよ。牢獄の中に、足首くらいの水かさの水が入ってる。そこに閉じ込められるんだ」

…だよな?

「な、なんだ…。溺れるほどの深さじゃないなら、別に、大したこと…」

と、ようやく余裕の表情を、一瞬だけ取り戻す黒い小人だったが。

「ふっ。甘いなー」

拷問の知識については、ここにいる教員達の一歩上を行っているすぐり。

小人の浅知恵を、せせら笑った。
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