神殺しのクロノスタシスⅣ
今度は何だ。

絶対ろくでもない奴に決まってる。

「出たな小人野郎…。間抜けな顔しやがって」

こいつら小人軍団の、数々の所業を思えば。

自然と、語気が荒くなるのも当然というものだ。

「今度は、何を教えろって言うんだよ?」

「…」

ピンク小人は、ちらりとこちらを見た。

何見てんだ。

すると。

「…うわぁ。このお兄さん、野蛮で怖い…」

あろうことかこの小人は、不審人物でも見たかのように、眉をひそめた。

ブチギレそうになった。

野蛮なのはお前だろ。

強制的に七日後に死ぬ指輪を嵌めて、感情を教えることを強要する奴が。

人様に向かって、野蛮なんて言葉を使うとは思ってなかったよ。

やっぱり殴ってやろうか。

もう俺、今回の一連の騒動で。

とにかく、小人への暴力衝動が抑えきれない。

「お前の御託なんてどうでも良い。契約するんだろ?さっさとしろよ。俺か?シルナか?」

「冗談じゃないね。僕は君みたいな、怖い人とは契約しないんだ」

何だと?

「もっと優しくて、心の広い人と契約したいんだよね〜」

何だ、この我儘。

小人って大概我儘だけど、こいつは何だか…その規格を越えている気がする。

「何せ、僕は『優しさ』の小人。君達に、『優しさ』を教えて欲しい。君達の『優しさ』で、この小瓶をいっぱいにして欲しいんだ」

そう言ってピンク小人は、空っぽの小瓶を振ってみせた。

「優しさ」…。こいつは、優しさの小人なのか。

…優しさ…。

「…シルナ。優しさっていうのは、感情のうちに入るのか?」

優しさって感情だっけ?

感情って言ったら…喜怒哀楽だろ?

しかし。

「僕達は、白雪姫の感情を集めてるんだよ?誰だって、お姫様には優しくするでしょ?だから『優しさ』を集めなきゃならないんだよ」

やれやれ、これだからにわかは、と言わんばかりに。

呆れたように、小人が説明した。

…何を偉そうに…。

「お姫様だからって、優しくしてもらえると思うなよ」

高貴な身分の人が優しくしてもらえるのは、その人がそれなりの役目を果たしているからだ。

役目も果たさず、ひたすら我儘ばかり言って、それで人に優しくしてもらえると思うなよ。

しかし、小人にそんな理屈は通用しない。

「あー、嫌だ嫌だ。こんな野蛮人とは、死んでも契約したくないね」

「なら死ねよこの野郎」

「ま、まぁまぁ羽久…」

シルナが、横から俺を諌めた。
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