陰謀のための結婚

 すると母の方から驚く質問があった。

「前から聞こうと思っていたの。香澄。あなた、お父さんを結婚式に呼びたい?」

 目を丸くして母を見つめると「そんなに驚く?」と軽やかに言われた。

「私、お母さんは、お母さんだけだもの」

 よくわからない言葉が口から転がり落ちて、声を詰まらせる。

「そう。そうね、ありがとう」

 真実は明かさなくていい。『黙っているだけで、騙しているわけではない』三矢の詭弁が頭に浮かんで苦笑する。

「私がお母さんとふたりで生きてきて、父の姿がない結婚式になるとしても、智史さんは私の気持ちを尊重してくれると思う」

 今まで過ごしてきた智史さんとの時間が、彼への信頼につながっている。

 母は智史さんが城崎グループの御曹司だと知っても、態度を変えなかった。結婚に反対しなかったし、家柄の違いについて説き伏せたりもしなかった。

 それだけでいい。それだけで母と三矢との関係は、私が想像していたよりも純粋なものだったかもしれないと思えた。
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