陰謀のための結婚

 私は芹澤香澄として結婚する道を選び、智史さんと、それから城崎社長にも思いを伝えた。

 婚約を発表をした際には、世間を賑わせた。後ろ盾もなにもない私との結婚を、まるでシンデレラだと揶揄する報道もあった。

 しかし私が一般人でメディアには一切の顔出しをしなかったため、次第に別のニュースに埋もれ、日々の平穏を取り戻していった。

 今日もマンションで彼の帰りを待つ。玄関の開く音がして、リビングから顔を出す。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 目尻を下げ、彼は私の頭を撫でたあと、お腹にも愛おしそうに手を回す。

 中隔子宮の手術は術後の回復の早い内視鏡手術を選択し、無事に終えた。それでも不安の残る私は、以前交わした約束をもう一度結ぼうと提案した。

『智史さんとの赤ちゃんを妊娠したら結婚してください』

 何度考えても、彼には彼の子どもを私のために諦めてほしくなかった。

 けれど私の考えは受け入れてもらえず、『俺は絶対に香澄ちゃんを手放さない。もちろん香澄ちゃんとの子どもも諦めたりしない』と宣言された。

 そして今、私のお腹には新しい命が宿っている。

「智史さん愛しています」

 あふれ出た想いに、彼は目を細める。

「ああ、俺も愛してる」


fin.
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