もふもふ、はじめました。
「付き合っている時間なんか、別に結婚に関係ないだろ。明日は指輪買いに行くか。それに、お互いの両親にも挨拶しに行こう。いつが良いかな……」

 さっさと結婚準備を考え始めた薫の顔を、まじまじと見てしまった。

「ちょっと待って。薫。私まだ、返事をしていません」

「そうか。では、返事をして。千世。僕と結婚したくない?」

 少し悩むふりをすると、大きな黒猫は器用に体を回して抱きついていた私の腕をするりと解いた。

「良いと言うまでは、もふもふはお預けだ」

 つんとした顔をして、ベッドの上で中途半端な体勢になっている私を見下ろした。彼の拗ねた様子に吹き出して、お腹を抱えて笑っている私を見て人化した。

 近くにあった黒い下着を手早く身につけると、私の顔を間近に見てその整った顔で真面目な様子で、もう一度聞いた。

「結婚しよう。千世……今なら。君の大好きなもふもふが、オプションでついてくるけど」

「すごく魅力的で、お買い得ですね」

「そうだ。だから君も、ここで素直に頷いておく方が良いと思うけど?」

 私たちはそのままじっと見つめ合って、やっぱりもう一度笑ってしまった。

「ぜひ、お願いします。私も薫とずっと一緒に居たいです」
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