もふもふ、はじめました。

いいわけ

 とにかく、こんな所では話するのもなんだからと無理矢理に明らかにムッとしている吉住課長の手を引いた。

 私の行きつけである、会社近くのアットホームな居酒屋へと二人で足を運んだ。

 掘りごたつのある小さな座敷へと案内されてお互いの足が触れそうなくらいの近さ、真正面の席には不機嫌な隣の課の上司。非常に気まずい。

 私は冷や汗をかきながら、説明をする。

「えっと、その、なんと言いますか。枝野さんが食事に行こうと言ったのは社交辞令、だと思います」

 じっとこちらを見つめる目は、嘘は許さないと言いたげだ。

 私はなんだか彼氏に浮気を見つかった時の言い訳を考えているようで、変な気持ちになってしまう。

「君から寿司に行きたいと言っていたように思えたが?」

「ああいう時は、焼肉かお寿司が常套句なんです。吉住課長。いかにもご馳走って感じがするじゃないですか」

 なんなんだろう。頭がぐるぐるする。なんで、こんな言い訳してるんだろう。

 付き合っても……ないのに?

「えっと、吉住課長」

「なんだ」

「私達、もしかして付き合ってます?」

「なんで疑問形なんだ」

 吉住課長はどちらとも取れる返事をした。そこはイエスかノーかで明確に答えて欲しかったんですけど。

「私、あの夜なんですけど私、何したかぜんぜん覚えてないんですが」

 黒曜石を思わせる深い黒の大きな目が細まって、ムッとしたように唇を結んだ。
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