もふもふ、はじめました。
 と、その時に掘りごたつの中の私の膝に柔らく気持ちの良いものが触れて、何故か巻き付いてくる。

 ふわふわとした、何か。もしかして、吉住課長の尻尾?

「僕と付き合うと言って、聞かなかった」

「……は?」

 膝の感触が気になりつつも、驚きで目が丸くなってしまう。

 私が、課長に、付き合ってって、言ったの?

「あんまりしつこかったので僕が付き合うことを了承すると、次は泣き出して。そのまま、寝入ってしまった」

「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。その、あの夜に掛かったお金も、金額を教えてください。また後日きちんと精算します」

 深く、頭を下げて謝る。

 その間に注文していたビールや料理なんかが、運ばれてくる。微妙な空気の中で、店員さんは去って行った。

「必要ない」

 じっと黒い目で私を見ながら、吉住課長は言った。

「でも……」

「番になる女性にお金をかけるのは当たり前のことだ」

「……え?」

「もちろん。君が別れたばかりで、すぐにはそういった事を考えられない、というのは承知している。それでも、あの夜から僕は君のことが頭を離れなくなっている。泥酔していたから、あの会話が記憶にないことも、わかってる。けれど、僕とのことを、どうか前向きに考えてくれないだろうか」

 彼の整ったお顔はすこし紅潮していて、私は柄にもなくドキドキ、ときめいてしまった。
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