もふもふ、はじめました。
 きっと別れたばかりの私の気持ちが落ち着くまで待ってくれる、という意味だろう。

 正直、葵から突然別れを切り出された時は世界が暗転したかのような気持ちになった。でも、ここ一週間。私の心を占めていたのは吉住課長だ。

 最初の混乱を過ぎてしまえば、こんな平凡な私に神様がくれたとんでもないチャンスなのかもしれない。

 元彼である葵のことをすぐ忘れられるか、と言うと答えは否だ。二年も付き合ったし。情熱的ではないかもしれないけど、ゆっくりと愛を育んできたつもり。

 ……そう思っていたのは、私一人だけかもしれないけど。

 葵から突然別れを告げられるまで、そんな素振り全く気がつかなかった。ましてや彼に他に好きな人ができたなんて、そんなこと気づきもせず……。

 とにかく、私は過ぎたことはもう振り返らない主義だ。

 これまでの少ない恋愛遍歴でも、ずっとそうしてきた。泣いてすがったってフラれた事実は変わらないんだから、別の人に目を向けるべき。

 別の人。ドキンと心臓が震えた。

 吉住課長は正直に言ってしまうと、すごく素敵だと思う。
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