もふもふ、はじめました。
 やがて彼が話終わると、器用に片眉を上げて私に向かって言った。

「……今すぐに今年のデータが欲しいそうです。それでこの件は目を瞑る、と。如月くん、担当のメールアドレスはわかるか? そこに送ってくれ」

 慌てて私が頷くのを確認して、颯爽と立ち去ってしまった。

 残された水沢課長と私は、驚きに目を丸くしてしまう。北斗通産の担当者は気難しくて有名なはずだ。

 こんなに簡単に頷いてくれるなんて、どんな魔法を使ったの?

 でも、でも。ピンチの場面で助けてくれたのはすごく嬉しい。

「如月、そう言った訳みたいだ。今回は吉住のおかげでどうにかなったが、今後は同じようなミスをしないように」

「はい。申し訳ありませんでした」

 驚きつつもぴしりと言った水沢課長にぺこりと頭をもう一度下げて、急いで自分の席へと戻る。

 あの日までなんとも思っていなかった吉住課長が、物凄くかっこ良く思えてしまって、挨拶文を入力しながらちょっと笑った。
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