もふもふ、はじめました。
 岸くんは指導係の枝野さんの隣の席なんだけど、私からは背中合わせの位置にある。

 時々聞こえて来る質問の声も張りがあって、前向きさやひたむきさが伝わってくるから、きっと良い営業になるんだろうなあって思う。

 ふと視線に気がついて前を見ると、仕切り代わりの収納棚の向こうにある通路から、吉住課長がこちらを見ていた。

 小さく手招きしているので、私が自分を指差すと少し呆れた顔をして頷いた。どうやら自分に着いて来い、と言いたいらしい。

 誰かに見られていないか不安になって辺りを見回すけど、電話をしていたり真剣にディスプレイを見つめていたりして、周囲は全く気がついていない。

 私はなるべく違和感がないように静かに立ち上がると、吉住課長の向かった給湯室へと急いだ。

 吉住課長は、私が滑り込んだ後にサッと戸を閉めた。

「……仕事中に、呼び出して悪いな。これから外出して直帰するから、その前に渡したいものがあったんだ」

「え?」

 彼がスーツのポケットから取り出した、四角い小さな箱を渡される。青い包装紙に、可愛いピンクのリボンのついた箱だ。

「大阪出張のお土産だ。有名な店の、美味しいチョコレートらしい。僕は良く知らないんだが、如月が喜ぶかと思って買ってきた」
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