もふもふ、はじめました。
「すみません、散らかってますけど」

 慌ててテーブルにあるものなんかを片付けながら、ワンルームの部屋に入ってきた吉住課長に振り向いた。

 彼はどこか不思議そうな顔で、私の狭い部屋を見回した。

「……ここに岸が来たか?」

 信じられない、という顔をしている。

 そうか。獣人は鼻が利くからこの前に来た岸くんの匂いもわかるんだ。いつもは普通の人と変わらないから、そんなことにも驚いてしまう。

「あ。そうです。この前歓迎会の時に送ってもらったんですけど、雨が急に降り出したから上がってもらいました。すごいですね。そんなことも、わかっちゃうんだ」

 のんびり笑いながら言った私はお茶を入れようと彼に背を向けると、そのまま無言でぎゅっと抱きつかれた。

「……よ、吉住課長!?」

 いきなりの展開に胸がどくどくと音を立てる。さっきまでの浮かれた気分もどこかに飛んでいってしまった。

 男の人の独特のちょっと汗くさい匂いがする。でも、この匂い嫌いじゃなくて……好きかも、とかどこか冷静な自分が分析する。匂いって合う人と合わない人いるっていうけど、吉住課長の匂いは……私好きかも。

「家に上がってもらうなんて、無防備が過ぎるな。如月」
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