もふもふ、はじめました。

送り猫

「ねえ、聞いてます? 吉住課長」

 結局高いお寿司屋さんでご馳走になると、ビールも飲んでご満悦で吉住課長に話しかけていた。

 程よく酔っ払ってしまうと、同じ話を繰り返してしまうのが私の悪い癖だ。

 吉住課長は少し呆れつつも、ふらふらとした足取りの私の手を引いて最寄り駅の改札を出る。

「聞いている。家まで送って行くから、どっちだ?」

「こっちです~」

 ご機嫌で案内する私に、やれやれと言った様子で吉住課長は着いて来る。ひょこひょこと揺れる後ろの黒い尻尾がなんだか、可愛くて笑ってしまった。

「吉住課長。尻尾、仕舞わないんですか?」

 耳と違って出し入れ自由の尻尾は、割と仕舞っている獣人が多いから聞くと、吉住課長は肩をすくめた。

「バランスの問題だ」

「バランス……可愛いから、良いんですけどね」

「可愛くはないだろう」

 そんなことを話しながら、私の住んでいるマンションの前まで辿り着く。

「あの。もし良かったら、お茶でも飲んで行きます?」

 何気なく言った私に吉住課長はその大きめな目を見開きながら、こくりと頷いた。
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