もふもふ、はじめました。

波乱の居酒屋

「如月さん、これ美味しいですよ」

 定時きっかりで素早く退社した私達が連れ立ってやって来たのは、お洒落な焼き鳥屋さん。

 カウンター席の隣に座って岸くんが、にこにこと可愛い顔を綻ばせて笑うから。ここ何日か続いている浮かない気分も、少しだけ上向いて来た。

「……ありがとう。岸くん、ごめんね。平日なのに、突然……大丈夫だった?」

 商社の営業というお仕事は、本当に過酷だ。

 お客さんからの呼び出しがあれば、何を差し置いても駆けつけなければならないし。お酒の席に付き合うのも、仕事の内だ。

 この前の枝野さんだって、金曜の夜に体が空いてるなんて本当に久しぶりだったのではないだろうか。

「いいえ、こんなお誘いなら大歓迎です。どんな飲みの席があったとしてもこっちを優先します」

「岸くん……ありがとう」

 彼の持つ三角の大きな耳は、ふさふさした黄金色だ。

「あの……前から聞きたかったんだけど、岸くんって柴犬なの?」

「そうです! この耳で、分かりますかね?」
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