もふもふ、はじめました。
「……あの後、何の連絡もないから心配してた。元気そうで、何よりだよ」

 好きな人が居るって言われて別れた後で、何の用事もないのに、元彼に連絡なんてしない。

 この人、何考えているんだろう。

 ……そんなことを言う自分だって、こちらに何の連絡もなかった。私から未練がましく連絡すると、思っていたのかな。

「そう。そちらも、元気そうで良かった。私達もう帰るから、じゃあね」

 隣の席で戸惑った表情をしている岸くんに目配せをすると、残っていたビールを一気に飲み干した。

 椅子に掛けてあったコートに手早く腕を通して、バッグを持って机の上の伝票を掴んだ。

「おい待てよ。千世」

「行こう、岸くん」

 私にならって素早く帰る支度を整えた岸くんは頷いて、私の右手から伝票を取った。

「如月さん。ここは、僕に払わせてください」

「私。先輩なのに、ダメだよ」

「じゃあ、今回は予行デートってことで、男に払わせてください……それだと良いですよね?」

 なんでもないことのように、可愛い顔で微笑んでくれた岸くんにちょっとだけ、きゅんとしてしまった。
< 56 / 120 >

この作品をシェア

pagetop