もふもふ、はじめました。

帰り道

「今日は、なんかしらけちゃって。本当にごめんね。岸くん」

「いいえ、あの店を選んだのは僕なので……嫌な思いをさせてしまって、すみません……」

 岸くんは高い背を折るようにして、少し俯きがちに謝った。いつも溌剌とした岸くんが、あの焼き鳥屋さんを出てから、元気がない。

「岸くんは、悪くないよ」

「今日は吐き出してもらって、楽になってもらおうと思っていたのに。逆に落ち込ませてしまいましたね」

「そんなことないよ。気を使わせて、ごめんね」

 ぎゅうっと、バッグの取手を掴む。

 葵と偶然会ったのは、確かに驚いたけど。少しだとしても、心が軽くなっているのは岸くんのおかげだ。

「じゃあ。ここで、僕は失礼します」

「送ってくれて、ありがとう。じゃあ、また明日ね」

 私がマンションの入り口で手を振ると、彼はにっこり笑って手を振り返してくれた。可愛い。

 何気なく後ろを振り向いたら、驚いた。黒いコートを着た黒猫獣人の男性が、そこにいたから。

 黒曜石のような綺麗な目に、少し幼くも見えそうなパーツなのに可愛いというよりどこか美しい顔。コートの前は開いていて、その下はスーツではなくて、モスグリーン色のセーターが見える。

「……よしずみ、かちょう?」
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