もふもふ、はじめました。

不穏

「千世。頭の中、薔薇色って顔をしてる」

 三時に待ち合わせた休憩スペースで、呆れたように笑って絵里は缶コーヒーを飲み干した。私は温かいミルクティーを飲んでエヘヘっと笑う。

「わかる?」

「まったく。人に心配を掛けておいて」

 はーっと息をついて、絵里は椅子に座っている私のおでこを小突いた。

「……その、勘違いだったみたいで。彼の部屋に従姉妹が遊びに来てて悪戯だったみたい」

「従姉妹ね。それって、タチの悪い悪戯ね? ……本当に従姉妹なの?」

 缶ジュースを離れたゴミ箱に投げると、見事入って絵里は小さくガッツポーズした。

「……私は、吉住課長を信じる」

「付き合ったばっかりの、熱いカップルだもんね。はいはい。ご馳走さまです」

 その時に偶然、休憩スペースの傍を黄金色の耳を持つ岸くんが通りかかった。指導係の大柄な枝野さんも、一緒なようだ。

「あれ。岸? 岸おいでよー。千世がジュース奢ってくれるって」

 岸くんは手を振った絵里に気がついたものの、済まなそうに両手を合わせた。いつになく険しい顔をしている枝野さんと、共にオフィスに行ってしまう。

「……岸くん?」

 私は、絵里と顔を見合わせた。どうも深刻そうな雰囲気だった。今日は二人は取引先に行っていた予定だったんだけど。もしかしたら、何かあったんだろうか。

「え? あれって何かあったんじゃない? 千世、行った方が良いよ」
「うん、絵里、ごめんね。また連絡する」

 私たち二人は、お互いに手を振って別れた。
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