もふもふ、はじめました。
「行きましょう。如月さん。話にならない……こんな奴の言うこと、聞く必要ないです」

「岸くん……」

 決然とした表情で、岸くんは葵に言い放った。

「……良いのか? 別に俺は構わないぜ。そこのかわいい犬の営業さんはでかい取引潰したってことで社内でも白い目で見られるだろうし、社外でも営業としての評判をこれから取り戻すのは大変だろうなあ?」

 嫌な笑いをする葵に私は吐き気が込み上げて来て、口を押さえた。付き合っていた二年間が、一気に壊れて粉々になる。

「そんなの、如月さんのためならなんでも耐えられる! 絶対にそんなことはさせない」

 岸くんは口を押さえて蹲ってしまった私の背中を、優しい手付きで撫でてくれた。

「はいはい。仲のよろしいことで。それで? 千世はどうすんの。そこの可愛いわんこくんを、わざわざ社会的な地獄に落とすんで良いんだな?」

「……考えさせて……」

 込み上げる吐き気の中、やっとのことで声を絞り出した。岸くんの体がびくんと揺れた。

「ふーん、まあ良いよ。俺もう帰るわ。お前ら美味しいお食事、食べてったら?」

 葵はそう言ってのけるとビールを一気に飲み干してコートを着ると、挑戦的な目で背中をさすられている私を見た。

「千世、連絡待ってるな?」
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