もふもふ、はじめました。
 でも、私のためにあの岸くんを、前途ある若者を大変な立場に追いやるなんて絶対嫌だった。

 岸くんは帰り際、自分のことはどうとでもなるから、絶対断るように何度も言って来たけど……。でも。

 しんとした暗闇の中、スマートフォンが振動して画面が光った。

『今から行って良い?』

 吉住課長だ。時計を見ると午前の三時半。こんな時間にどうして。

 私はのろのろとそれを取り上げると、電話番号を探して画面をタップした。

『千世、大丈夫か』

 私は葵から言われたことを吉住課長に言うかすごく、迷った。……こんなこと、言えない、とそう思った。

「えっと……大丈夫、です」

『嘘つけ』

「どうしたんですか、こんな時間に……」

『……今タクシーに乗っていて、もうすぐ千世のマンションまで着く。それから話そう』

「はい……」

 じゃあな、と優しい声を残して通話は切れる。私は起き上がって、部屋着の上に分厚いパーカーを羽織り電気を点けてエアコンを稼働させた。
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