家出少女と恋愛小説家
「え?」

「あ」

 佐伯は「しまった」という顔で狼狽えた。

「悪い。つい、と言ったら軽すぎるよな。すまない」

「もう1回いいですか?テイク2で」

「はい?」

 志保美の切り替えの早さに佐伯は気を呑まれそうになるが、また身体を寄せる志保美を受け入れた。再び触れるふたりの唇。タバコの匂いが香る大人のキスに志保美の頭は既にクラクラきている。これは演技なのか?それとも…。

 初めての感覚にわけが分からないまま唇を合わせた。

「おい、なんて顔してるんだよ」

 唇を離したときに佐伯に言われて志保美は羞恥で顔を両手で覆った。触れた頬が熱を帯びている。

「すみません、演技と分かっているのに、私…」

「いや、ごめん。何やってんだろう、俺」

 佐伯は志保美から目を背け、ボサボサの頭を荒々しくかいた。18歳の少女に翻弄されている自分がいると気づいてしまった。キスなどフリだけでいいのに。佐伯が演技などできるわけがない。身体が勝手に動いてしまったと言っていいだろう。佐伯は自分の冒した行動に動揺していた。
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