家出少女と恋愛小説家
「じゃあこっち来な」

 佐伯は志保美の腕を掴み、ホームの人気の少ない場所に連れて行った。

「セリフなんて覚えてないぞ」

「だいたいでいいんですよ」

 志保美は佐伯との距離を詰めて隣に立った。

「『電話もするし、メールもするし、時々手紙も書くね』」

「『俺も、手紙書くよ』」

「『離れていても、ずっと好きだよ』」

「『ああ、俺もだ』」

 潤んだ瞳で見つめる志保美に佐伯はいささか圧倒され、演技と分かっていてもドキリとしてしまう。

「『もう、行かなきゃいけないね。4年後、あっちの大学卒業したら、必ずあなたの元に戻って来るから待っててね。絶対だよ』」

「『当り前だろ。ずっと待ってるよ』」

「『ねえ、最後だから…あの…』」

 口ごもる女の意図を汲み取り、男の方から女を抱き締める場面だ。佐伯は多少戸惑いながらも、小柄な志保美の身体を強く抱き締めた。ほのかに香る佐伯のタバコの匂いに志保美の胸は切なさできゅっと締め付けられた。 

 身体をゆっくり離し、志保美は佐伯を見上げた。


見つめ合うふたり。


別れのキスを交わす場面だ。

佐伯の顔が近づいてくる。

キスはフリだけだろうと思っていた。

予想に反し、佐伯の唇が自分の唇と重なった。

予想外のことに驚いて数歩後ずさりしてしまった。
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