家出少女と恋愛小説家
 その日の夜、志保美は昨夜のように縁側で缶ビールを飲みながらタバコを吸う佐伯の隣に座った。昨夜よりも心なしか距離が近いと佐伯は思った。

「私も、佐伯さんの小説のような素敵な恋がしたいです」

「その前に家に帰りなさい」

「そんな冷たいこと言わないでくださいよぅ」

「親が心配してるだろ。君、一人娘なんだろ」

「私、進路のことで母と喧嘩したって言ったじゃないですか」

「ああ」

「私、女優になりたいんです」

「ほう」

「上京して、事務所に入って、オーディション出て、ドラマや映画に出て、いつかは主演を張れる女優になりたいんです。お母さんをぎゃふんと言わせてやるんです」

「そうなんだ」

 彼は喉を鳴らして缶ビールをうまそうに飲んだ。

「俺も、親には小説家になることを反対されたんだ。だから君の気持ちはよく分かるよ。でも、自分がしたいことに向き合いながら、親と向き合うことも大事だと思うよ。母親に応援してもらえるように頑張れ。誰よりも一番君のそばにいて君を一番に思っている家族だろう?」

 志保美はなんだかじんときてしまって涙がこみ上げてきた。

「また泣いてるのか」

「これは演技です」

 佐伯は軽く鼻で笑っている。手に持つタバコを指でたたいて灰を庭に落とした。
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