腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
講演は90分だったけど、あっという間だった。
またこの先生の講演があれば聞いてみたいな、と思って会場を出ると、一緒に聞いていた室長が、
「すごく興味深かったわね。ちょっと先生にご挨拶に行かない?」
と言い出す。
「ご、ご挨拶、ですか?」
「うん。実は工藤先生って、私の主人の同期の息子さんなの。それで、学生時代はうちに夕飯を食べに来たこともあるわ」
正司室長のご主人はうちの病院の精神科の非常勤医師だ。
大学の客員教授もされ、今は海外の大学でも学ばれていて、月に2回ほど日本に帰ってきて、うちと大学で担当の患者さんの診察に当たっている。
そのご主人の同期の先生の息子さん。
医師の世界とは案外狭いものだと聞く。特に同じ診療科の先生はほとんど横で繋がっていると言っても過言ではない。
でも、それは私にとって朗報だった。
私も講演を聞いて、工藤先生と少しでも話しをしてみたかったから。
「本当に私も一緒にいていいんですか?」
「もちろんよぅ!」
室長は軽快に笑った。