腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる
一通り三人で話しおわって笑ったとき、室長のスマホが鳴る。
室長が、主人だわ、というとそのまま電話に出た。
「今、工藤先生とお茶してるのよ。ももちゃんも一緒……なによ、え? 嘘でしょ! 今から? 今、どこ? ……えー、わかったわよ。迎えに行くから待ってて。うん、うん……」
電話を切ると、室長は申し訳なさそうに工藤先生を見る。
「工藤先生、主人が今日本に戻ってきたところで、工藤先生がいるなら顔だけでも見たいからここに来るって」
「いや、そんな申し訳ないですから、僕の方から行きますよ」
「もう行くって聞かないの。あの人の性格、わかるでしょ? アメリカ帰りで荷物も多いだろうし、私、迎えに行ってくる。ここからだと一時間はかからないと思うけど、工藤先生の予定はどう?」
「今日はこれだけですから問題ないです。では、お待ちしています」
「室長、私はそろそろ……」
懐かしい面々を邪魔する気になれなくて私が立ち上がろうとすると、その手を掴んで室長は椅子に引き戻した。
「ももちゃん、もしよければ、主人が来るまででいいから待っていてくれないかしら」
「工藤先生が……よければ」
「僕はもちろんいいよ」
工藤先生はにこりと笑う。
「なら、そうさせて。すぐに迎えに行ってくるわね」
室長はそういうと、嵐のように去って行った。
その後姿を見ながら、
「正司先生、結構自由な人なんですよね。昔から」
そう言って、工藤先生は楽しそうに笑う。振り回されて笑っていられるのは信頼関係の証だろう。
先ほどの室長の、振り回されて困ってる口調なのに、嬉しそうな顔も思い出して笑ってしまう。
「ご主人に振り回されてるけど、楽しそうでしたね。室長も」
「あの夫婦は昔からずっとそうなんだよ」
工藤先生はにこりと笑って私を見た。
(私も、最近はリク先生に、いや、主に、夜のリク先生に振り回されてたなぁ……)
その言葉を聞いて、私は夜のリク先生のことをまた思い出していた。