腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 12時を知らせる時計の音が耳に聞こえる。
 その時、先生が私の目を見て、少し低い声で問いかけた。

「もも? 今日は、どうやって帰ってきたの?」
「タクシーれす」

 いつも通りさらりと答える
 
 今日の居酒屋は家から徒歩20分のところだったけど、斗真と近くまで歩いて帰ってきた。

 タクシーだと嘘をついてもバレないし、下手に心配だってさせるつもりはなかった。悪い嘘ではないはずだ。

「それに飲んできたんだ? 連絡来てなかったけど」
「ええっと、入れたつもりだったんれすけど……れも電波届かない場所で送れなかったんれしょう。すみません」

 また、さらりと嘘をついていた。

 でも、私ね、子どもみたいに自分の心配をしてほしいんじゃないの。
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