腹黒脳外科医は、今日も偽りの笑みを浮かべる

 慌てて走るようにリビングに行くと、リビングの明かりはついていて、先生がテーブルで分厚い本を読んでいた。

「おはよう。しっかり眠れた?」

 そう優しく微笑む先生を見て、私は頭を抱える。
 先生は今日は家にいたのだ。

「先生と二人の時間だったのに! 私はなんてもったいないことを……!」
「あはは」
「笑い事じゃないですよぉ……! なんで起こしてくれなかったんですか!」
「ももの寝顔が間近で見られて僕はラッキーだったよ」

 そう言って、先生はまた優しく微笑む。
 その笑顔に絆されそうになったけど、私は首を振り、先生を睨む。

 先生、酷い。
 私は先生ともっと話したかった。

「私は先生と話して、もっと……!」

 いつのまにかぐっと手を握り締めている。「もっと、夫婦っぽいこともしたかったんです!」

 思わず私が叫ぶと同時、先生は驚いた顔をして私を見ていた。

(なんかすっごい恥ずかしい! ええい、でも、もうここまで来たら言うしかない!)

< 72 / 218 >

この作品をシェア

pagetop