甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





結局、電話は出来なかった。そして…その電話も鳴りもしなかった。買い物に出る気力もなく、ただ暗い部屋にうずくまり夜を越え…朝を迎えた。

仕事なんて行けない。動けない。

そう思ったが、長谷川さんが信頼して雇って下さった思いを思い出し、シャワーを浴びて水だけを体内に入れると、ノロノロと身支度を整える。ノロノロの自覚があるのでいつもより早めに家を出て最寄り駅に向かう途中で

「あ、紫乃おはよう。いってらっしゃい」

昨日の服のままの瑠璃子に出会った。

「何?私に何かついてる?」

ううん…首を横に振るとふらつきそうだ。

「休みに弾けすぎたんじゃない?疲れた顔してるよ」
「瑠璃子…元気だね…」
「うふふ、そう?そうかなぁ?」
「電車乗らなきゃ…」
「いってらっしゃい」

返事は出来なかった。彼女の首筋の真新しいキスマークに頭がくらくらする。
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