甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
who they really are and he really is*彼らの本性と彼の本性
えらいよ、私。ちゃんと仕事に来たよ…えらい。
オフィスのドアの前でバッグをがさがさと漁り…あっ、このドア、鍵挿さなくて良かったんだ。リモコンキーだったことをすっかり忘れていたのは、頭が働いていないせいではなく連休のせいだと思いたい。
ドアノブのボタンを押しながら、ドアを開けて空っぽのお腹に力を入れた。
「おはようございます」
「おはよう、紫乃さん」
パソコンの画面から私へと視線を移した長谷川さんが、いつもならチラッと挨拶に目を合わせて作業に戻るのにじっと私を見ている。私…シャワーのあと化粧もしたし、髪もセットしたよね?思わずブラウスのボタンを確認したが問題ない。その間も彼の視線を感じつつ、自分の席へ着いた。
「いい連休だった?」
「はい…あっ…お土産持ってくるの忘れてしまいました…すみません。明日…」
「お土産買ってくれたの?ありがとう」
「いえ、ほんの少しだけ…」
「久しぶりの帰省だって言ってたよね?楽しめた?」
「はい。友人とも会えて良かったです」
「そう、それは良かった。今日は依頼の断りをたくさん入れてもらいたい。メールで指示したからよろしく」
「わかりました」
全く良かったと思ってないでしょ?と言いたくなるような冷たいトーンで‘それは良かった’と言った長谷川さんがわからない。でもそんなこと気にしていられない。ゆっくり丁寧に仕事しようと、一度大きく呼吸をしてからキーボードに手を掛けた。