甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》



翌日10時に来てくれと伝え紫乃を帰した後、彼女の履歴書を広げ隅々まで…行間を拾いたいという思いで読み込む。添付の写真では確認できない耳たぶのほくろを撫でてから、弁護士に電話するが裁判所に出向いているらしく繋がらない。間宮という事務員に伝言を頼んで電話を切ると、オフィス内を見渡した。

大きな楕円形のテーブルを囲む6脚の椅子。壁際にも作り付けテーブルがあり、俺は気分を変えるために座る位置を固定していない。全てパソコンでする作業だから自分が動くことで変化をつけるのだが、紫乃の席はどうする?俺が一番使う席の隣にするか。

鍵も渡さないと…このオフィスの上の自宅の鍵も一緒に渡しておくか…いずれ必ず紫乃が使うものだ。

そして適当な付き合いをしていた女が一人いるので別れるとメッセージを入れる。この1ヶ月以上の間メッセージさえやり取りしていないような相手だが、あとで揉めるのは御免だ。このあと紫乃にすぐしゃぶりつかずに、ゴールデンウィークが終わるくらいまでは静観する。女と付き合っている時期が重なっているような誤解を招かないよう細心の注意を払う。

弁護士から連絡があり、遠方の裁判所にいるのにと文句を言われたが明日10時は絶対だと譲らない。

‘いつもの俺様横暴ハセイチじゃ、事務さん続きませんよ’

そう言い切られた電話だが気にせず、すでに‘紫乃’と登録した番号をタップした。
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