甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》




紫乃が俺の名前を知っていると言った3年前の‘シェアレンティング’について書いたブログ。それまでも小遣い稼ぎ程度には読者がいたブログ。得意分野である、パソコン関係のことを話題にすることが多かったが、そこに法学部の知識をプラスしたような感じで‘シェアレンティング’について問題提起する内容を書いた。それが様々なSNSで拡散し話題になり、僅か1週間後にはワイドショーなどが取り上げ始め、俺の名前は‘ハセイチ’といつの間にか世間に知られることとなった。

有名になると本業の依頼が何倍にも増え、単価も倍額になった。それでも依頼は増える一方だ。やめ時がわからないままブログも続けており、ブログは寝ていても収入を得る手段だと思うようにしている。

「このカプセルたち…世界中を旅行している気分にさせてくれますね」
「そういうことを感じる人、そういう感性の人に是非、仕事を手伝って欲しいな」

俺が‘な’なんて付けたところを俺の知り合いが聞いたら検査入院させられそうだ。誰に何と言われようがいい。珈琲カプセルで世界中を旅行している気分だと言う紫乃が欲しい。

珈琲を選ぶ彼女をじっくりと眺め、右の耳たぶにほくろを見つけた俺は、その耳を舐め回したいと唾を飲む。珈琲カップを持った細い指を一本ずつ…関節のシワまで舐めて吸いたいと思う。今までにない欲求だが戸惑いはない。その欲求は必ず満たしてやる。
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