甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





紫乃ちゃんの結婚式の2日前。予約していたネイルサロンで予定を変更した。

「短く整えてマットなピンク一色にして下さい」

年明けの出勤に長くてキラキラビジューネイルは邪魔だと思ったんだ。植木鉢を運ぶのに邪魔になってはいけない。

スモーキーピンクのチューリップスリーブドレスで披露宴に出席する。紫乃ちゃんのドレスは知らないけどパープル系の気がするから、パープル系ブルー系は避けて自分のドレスを選んだ。

お兄ちゃんの司会、しかも進行表なしってどんな披露宴?大丈夫?と思ったけれど、上品な飲み会風に進んでいく。シャンパンもお料理もとても美味しくゆっくりといただける雰囲気で、大阪から来ている紫乃ちゃんの友達とも話が出来た。ハセイチビルの1階カフェからは行ってみようと思う美味しいサンドイッチが少量出され、紫乃ちゃんも食べている。

そしてお色直し。紫乃ちゃんのドレスはやっぱりパープルだ。パープルのグラデーションがうっとりするほど美しい。さらにうっとりしたのは、その時に流れたピアノ…お兄ちゃんの店の流さんが弾いたピアノの音色に聞き入ってしまう。紫乃ちゃんと壱くんがテーブルごとに呼び止められて写真を撮っているからピアノ曲が繰り返し流される。たった2曲だから同じものが流されているのだが飽きない。流さんか…いいなぁ…何度か店に行ってその度に会ってはいる。私はお兄ちゃんの妹なので、どのスタッフさんもお客様よりカジュアルに接したり、お客様扱いの中に彼らの素が出たりすることもあるが流さんは一貫して同じ態度でこれが素なの?といつも観察してしまう。とても気になる大人の男性だ。その彼がこのピアノ…素敵過ぎるでしょ?

その後に壱くんやお兄ちゃんの先輩でハセイチビルに入っている経営コンサルタントの二人が、老若男女のハートを撃ち抜く歌を歌ったが、私のハートはそこで彼らの歌ではなくピアノに撃ち抜かれた。
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