甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》





「あとはね…この大きいのはダメだね…こっちのカップならオフィスの珈琲マシンにいける?」
「イケるだろ」
「じゃあ、栫井さん」
「はい」
「榊原さん、どれが好きそうですか?」
「玲央ですか?」
「紫乃?どういうこと?」

なぜ俺でなく榊原さん?

「榊原さんと聖さん、最近よくうちで勝手に…いや自ら珈琲を入れるんですよね。時々自分の珈琲を入れながら‘紫乃さんもいる?’って言うほど来ます」
「そうなの?」
「ああ、休憩室にされてるんだよ、うち」
「お菓子持って来て下さったりでいいんですけど…最近カップまで自分たちで洗って帰られますし…この頻度ならお二人のカップを置いておこうかと思って。一目でこのお店のものと分かればサプライズ?みたいな。ね?」

大したサプライズでもないと思うが、紫乃が考えたらいいサプライズになるな。これで榊原さんが驚かなかったら今回の請求額を倍にしてやる。

「ベタな土産みたいなのにすれば?」
「えーこんなに可愛いのがいっぱいあるのに?」
「Amsterdamみたいなロゴのやつ」
「そんなのオフィスに置きたい?」
「それもそうだな。じゃあ、すげぇファンキーでチカチカしたやつ」
「そっちならいいかな」
「「いいの(か)?」」

俺と栫井さんの声に

「うん?こんなのだったら可愛いよね?」

ピンクをベースにオランダをイメージする絵柄がカラフルにびっしりと描かれたカップを顔の高さまで掲げた紫乃の方が可愛らしい。

「それを使っている玲央が見てみたいかも…ふふっ」
「サプライズじゃなくてイタズラだ…ふふっ」

俺は、ふふっと二人で顔を見合わせて笑っている紫乃だけを視界に入れていた。
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