甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》




「久しぶり…こんなに百貨店に来なかったのは大人になってから初めて」

平日の開店直後に訪れた百貨店の店内をぐるっと見渡す紫乃は深呼吸でもしそうだ。思う存分買い物してくれ。

まず紳士フロアに来たが、父さんは何でも喜ぶと思うから、さっさと紫乃の買い物へ行きたい。だが紫乃はゆっくりと歩き、俺はベビーカーを押して様子を窺う。

「あっ、壱」
「いいのあったか?」
「このリネンシャツ、壱に似合いそう。よくない?」
「俺?」
「うん、見つけちゃった。着てみて」

紫乃が言うなら喜んで着る。

「やっぱり…素敵…ホワイトとネイビー、買っていい?」
「そうする。このブランド、レディースもあるだろ?同じの出てたら紫乃もいいんじゃないか?エアコンを気にする時があるから長袖シャツ着るだろ?」
「お揃い?」
「お揃いだ」

店員に聞くと、同じ素材とカラーでレディースのシャツも出てるというのでまずここで2点迷わず購入する。想定外に俺の物だが幸先のいいスタートだ。

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